2008-07-31

羅臼岳でヒグマに見られる

足跡、爪痕、糞に食痕。大雪山を歩いていると、ヒグマが残したサインを至るところで目にします。わずかばかりの時間差をおいてクマとヒトとが同じ空間に立っている事実に、常にその存在を感じてはいました。実際に見かけたことも何度かあります。でも・・・

ここまで近かったのは初めてのことです。

昨日登った羅臼岳。羅臼平で休憩しているときでした。お客様が発した「クマ!」との声に顔を向けると、50~60mほど離れたハイマツがユッサユッサ揺れています。羅臼平に向かって降りてきた三ッ峰の斜面が、斜度を無くして平らになるかならないかというあたり。感覚的には「かなり近い」距離です。そこから、のそり、と現れたのはやはりクマでした。こちらを一瞥してゆったりゆったりと薮をかき分け歩いていきます。 ついさっき私たちが登ってきた大沢の方に向かっているようです。

そんなに大きくはないので、メスか親離れしたばかりか。少し歩いては立ち止まり、こちらに顔を向けては様子をうかがっています。一応クマスプレーを取り出しはしましたが、 「オレ、オマエラに興味ないもんね」という合図に、「こっちだって無関心ですから」と返し、即席の紳士協定が成立。お互い干渉せずに徐々に距離は離れ、ついにはお別れということになりました。本当はお互いに気になって仕方ないのに、知らないふりを装い合ったわけです。

怖いという感情がちっとも湧かなかったのは、おそらくクマが落ち着き払っていてくれたからでしょう。

羅臼岳の登り始めに置かれた看板を見ると、大沢付近では何度もクマが目撃されているようです。

でも、何度もこちらを振り返りつつ歩いていったあのクマのことを思い出すと、クマを見たというよりクマに見られたというふうに感じてしまいます。おそらくクマの方が先に私たちに気づいていたのでしょうし、そういう意味でも山で見られているのはヒトの方なのかもしれません。

知床のクマ密度の高さを再認識させられた日となりました。

2008-07-24

なっきー三昧

東大雪・音更山にツアーで行ってきました。ここはもともとナキウサギがよく見られる山なのですが、今日は特に活発に動き回っていたようです。

歩き始めてすぐにある苔むした岩場。その名も「鳴兎園」で見かけた、なっきー1号。岩の隙間に隠れることなく、手の届きそうな距離でしばらく走り回っていました。こっちを見つめたり、おしりを向けたり。走ったり、止まったり。これだけ近くでナキウサギを見たのは久しぶりです。あまり警戒心のない個体だったのでしょうか。

次いで、音更山山頂で見た、なっきー2号。お昼ご飯を食べているときに、ちょっと離れた岩場に動く影を見つけました。おお、またしてもなっきーではないですか。私たちの他には登山者のない静かな山頂でしたから、うっかり出てきてしまったのかも。

最後は下山中、通称・大崩で見かけた、なっきー3号。毛色がまだらになっているのは、おそらく冬毛から夏毛へと換毛の途中。つぶらな瞳がたまりません。

姿を見ることは良くあるナキウサギですが、これだけ近くに出てきてくれるのは珍しいですし、しかもそれが1日に3回もとなると初めてのことです。ナキウサギ三昧の音更山でした。

2008-07-22

実盛り・姿見平

姿見園地から裾合平方面へわずかに進んだあたり。旭岳に向かってごく緩やかに傾斜する斜面は、びっしりとお花で埋め尽くされ、なかなかの穴場になっています。

でも、今年はもう花の時季が過ぎてしまったようで。

ツガザクラは真っ赤な種をつけて、ピンと背筋を伸ばしています。遠くから見ると、一面が緋色に染まり、お花畑であるかのようにも。

チングルマもふわふわ立派な綿毛になりました。白い花をつける時季に負けず劣らず私たちの目を惹くのです。

すっかり実盛りとなった姿見平です。

ポロシリ岳

8月のオリジナルプログラムの下見を兼ねて、7月19日から21日にかけて行われた幌尻山荘フォーラム&08第1回幌尻山荘排泄物運搬事業に参加した。フォーラムと排泄物運搬事業については別の機会に述べるとして、取り急ぎ登山コースのようすのみ報告する。今回は特別なイベントのため、入林ゲートから取水ダムまでバスで入れたが、一般の登山者は、入林ゲート脇の駐車場に車を止めて、林道を取水ダムまで歩き、そこからの登山となる。

ここが入林ゲート脇の駐車場。すでにたくさんの車が止まっている。奥のほうには中型バスもある。車の台数から山荘の混み具合がだいたい想像できる。

ここからは許可車両のみが入れる。一般登山者はここから歩きはじめる。

林道終点の北電取水ダム。ここからは徒渉と巻き道歩きを繰り返しながら額平川を詰めて行く。

徒渉のようす。それほど増水はしていなかったが、深いところでは股下までの水位がある。背負子にくくり付けられているのは、排泄物を運ぶための一斗缶。2日後にはこれに内容物を入れて、沢を下ることになる。

ごらんのように両岸が切り立った地形のため、増水しやすい。

水量が多くて、水流のなかを歩けないときは、少し高い場所を嵩巻くことになる。

三時間ほどの遡行でたどりついた幌尻山荘。築40年の立派な山小屋だ。

2日目の清掃登山は雨のなかの出発に。2時間弱の登りでたどりついた「命の水」。ここで水筒の水を満たしてさらに急な登りを行く。

さらに歩くこと2時間で新冠コースとの分岐に到着。深田久弥氏はこちらから登ったらしいが、36キロの林道歩きを嫌がって、百名山ハンターのなかにもこの道を登る人はまずいないらしい。

ここが「日本百名山」幌尻岳山頂。視界はほとんどない。

戸蔦別岳へと向う縦走路。右側は北カールへと切れ落ちる急斜面。

戸蔦別岳山頂。残念ながら視界はない。

稜線からの下りはかなりの急斜面。雨で足下が滑りやすいので慎重に下る。

ようやく見えてきた六の沢出合。ここからも何度かの徒渉を繰り返して山荘へ戻る。

やっと見えてきた水力発電用の導水管。出発からすでに11時間以上経っている。終日霧雨のなかをあるいたため、全身びしょ濡れになってしまった。明日は排泄物を背負って、来た道を引き返すのみ。

2008-07-17

親亀子亀

山中泊の一コマ。

90リットルのザックの上に60リットルのザックを載せて。親亀の上の子亀か、はたまた卵嚢を背負ったコモリグモか。

たまにはこうして歩くこともあります。

2008-07-15

ナキウサギ四態

目にすることは多々あれど、腰を落ち着けでもしなければなかなか写真を撮るのが難しいナキウサギ。望遠の効かないカメラではなおさらです。でも、たまには写され好きのナッキーもいるようで。比較的近くの岩の上でしばらくもぞもぞしていてくれました。

右からパチリ。

左からもパチリ。

右斜めからも一枚。

そして最後は正面から。

後ろ姿は見せてくれませんでしたが、逃げも隠れもせずにこれだけ色々なポーズを取ってくれるなんて、ずいぶんとサービス精神に溢れたナッキーです。ヒサゴ沼近くの岩場でのことでした。

二度目のトムラ

5月に続き、今年二度目のトムラウシ。今シーズンは後何回山頂を踏むことになるかな?

そんなこんなで更新が滞る日々です。

2008-07-12

あっちもこっちも群落だらけ

黒岳からお鉢平を一周するコースを歩くと、あっちを見てもこっちを見ても至る所でお花の群落だらけです。それはさまざまな色があって、目にも綾とはまさにこのことでしょう。

黒岳8合目から9合目にかけては、ちょうどウコンウツギが旬。右を見ても左を見ても上にも下にも大きめの黄色い花が咲き誇っています。

黒岳石室から時計回りでお鉢平一周にかかると、北海沢沿いの雪渓跡を、いつものようにエゾコザクラがびっしり埋めています。

北海岳に向けて登っていく途中には薄いピンクのコエゾツガザクラ。ころころと可愛い玉の花を密集させています。

登山道の側面、足に触れそうな場所にはイワヒゲが鈴生りです。これだけ見事なイワヒゲはそう見られるものではありません。

北海岳から間宮分岐の間、お鉢平の稜線部では、赤茶けた地面が黄色のタカネスミレに覆われています。

黄やら赤やら桃やら白や。表大雪に花真っ盛りの季節がやってきました。

2008-07-08

富士山 VS 羊蹄山

先週登ってきた羊蹄山。ツアーに参加されたお客様が、山頂部のお鉢を見て「まるでミニ富士山」と感想をおっしゃっていました。富士山未登の私は、そうか富士山とそっくりなのか、さすがは蝦夷富士と呼ばれるだけのことはあるなあ、と脳天気に聞いていました。

それから数日。じゃあいったい富士山と比べて羊蹄山はどのくらい小さいのか、それが気になりだしてしまい、調べてみましたカシミールで。そうしたら・・・

お鉢の最外周の距離は 羊蹄山の方が長い という驚きの結果が!同じ縮尺の下図を見比べると一目瞭然です。富士山は日本最高峰だから当然お鉢も大きいはずと無邪気に思い込んでいましたが・・・。やるじゃん羊蹄。




数字で見ると以下の通り。

 

富士山
(吉田口5合目より)

羊蹄山
(真狩コース)

お鉢1周の歩行距離
(km)

2.5

2.7

お鉢1周の累積標高
(m)

±139

±212

登山全行程の歩行距離
(km)

14.7

15.0

登山全行程の累積標高
(m)

±1680

±1760

標高(m)

3775.6

1898


お鉢1周の距離だけでなく、累積標高でも羊蹄山の方がはるかに大きい数字が出ています。つまり山頂部をぐるりと一回りするには、富士山よりも羊蹄山の方が疲れるということです。

さらに登山口から歩き始めてお鉢を回って下山する全行程で見比べても、ほとんど差が無いとはいえ、ことごとく羊蹄山の方に大きな数字が出ています。登山対象として見ると、富士山と羊蹄山はほぼ同じ程度の山であると言えるかもしれません。

もちろん標高は富士山が倍近く高いので、見える景色も違えば空気の薄さなんかも違うわけで、この数字だけを見て全てを判断することはできません。でもやはり道産子としては、「富士山より羊蹄山のお鉢の方が大きいんだぜ!」というのに気持ちよさを感じてしまうわけです。

だからもう、蝦夷富士なんていう無駄にへりくだった言い方はやめにしましょう。和人の歴史的には「後方羊蹄山」という立派な名前がありますし、アイヌの歴史的には「マッカリヌプリ」という素敵な名前があります。なんなら富士山のことを「内地マッカリ」とでも呼んだらいいのかもしれませんよ。

2008-07-07

最盛期突入

7月に入り、スタッフノートの更新はおろかパソコンの前に座ることすらできない日が続いています。今年も忙しい夏が始まったなあ、としみじみ感じてしまいます。書きたいことはたくさんあるのですが・・・。

2008-07-06

花盛り富良野岳

花・花・花・・・。ありとあらゆるお花が咲き集う富良野岳周辺。さすがは花の名山と呼ばれるだけのことはあります。その素晴らしさの一端でもお伝えできれば。

まずは十勝岳温泉から十勝連峰主稜線まで。

荒涼としたヌッカクシ富良野川を渡り、最初に目を驚かせてくれるのは、黄色鮮やかなウコンウツギ。登山道脇からはるか斜面の下まで黄色い帯が続いています。

足下には小さい鞠のようなイソツツジがいくつもいくつも。

沢沿いで雪融けが遅かったであろう辺りにはエゾコザクラが立ち並び、みんなでこっちを見ています。

チシマノキンバイソウも今が盛り。大降りの濃い黄色が寄り集まって咲くと、辺りが明るく感じられるほどです。思わず目を奪われてしまいます。

十勝連峰主稜線から富良野岳山頂までは、まさにハイライト。右も左も、目の高さにも足下にも、とにかく目に入るところには全てお花が咲いていると言っても言い過ぎではないでしょう。

今年初お目見えとなるヨツバシオガマ。一本だけ凛とした佇まいでいました。

これくらい花色が淡いとトカチフウロと言っていいでしょうか。決して派手ではありませんが、清楚で可愛らしい花です。

富良野岳の主役の一人、コイワカガミ。大雪山広しといえども、どこででも見られるお花ではないのです。しゃがむとちょうど顔のあたりに来る高さに咲いているのは、まるで人に見てもらうのを待っているかのよう。

他の植物が入っていない岩と砂礫の地に、いち早く根を下ろしたエゾヒメクワガタ。小さい小さい花ですが、寄り添って咲くので全体としてはよく目立ちます。

山頂が近くなってくると、ミヤマキンバイも見られるようになり、

お、イワヒゲも咲いています。この辺の花は大雪山のド定番ですね。

小さい花をたくさんつけるホソバイワベンケイ。そして・・・

山頂直下のごく一部でだけ見られるのは、エゾルリソウ。きっとこれを見るためだけに富良野岳に登る人もいるでしょう。今日は残念ながらまだ蕾でした。来週あたりは咲いているのでは。

富良野岳山頂周辺ですごいのは、登山道のすぐ脇から斜面のずっと下までお花が埋め尽くしていること。たとえばこのハクサンイチゲのように。

もうお腹一杯な気分ではありますが、まだまだもっともっとたくさんのお花が咲いているのがこの時季の富良野岳周辺。主稜線を三峰山・上富良野岳とたどり、十勝岳温泉に下る道すがらには・・・

メアカンキンバイ。さっき見たミヤマキンバイとの違い、わかりますか?

いわゆる高山植物の女王・コマクサ。でも今日は他の花々の華やかさに埋もれている感じ。

ジムカデもそう多くはありませんが一部で咲いていました。花と葉の大きさのバランスが絶妙ですよね。

目にした瞬間思わず声を上げてしまったツガザクラの群生。いえ密生。びっちりと斜面の一角を紫の玉が埋め尽くしているのは圧巻です。

締めはチングルマで。大雪山ならどこででも見られる花で、よほどの群落でもなければ特別扱いしてもらえないかわいそうな花ではあります。でもやっぱり無いと寂しいし、私たち地元の人間にとっては、健康とか空気のような存在なのかもしれません。

花の名山・富良野岳周辺の高山植物はいかがでしたか?ここで紹介しきれなかったお花もまだいくつもあります。ぜひ足を運んでみてください。写真で見るより何倍も綺麗ですから・・・