2011-12-08

広報ひがしかわ12月号

東川町の広報『ひがしかわ』12月号「大雪山の素顔」に拙文が掲載されています。原文に若干手が加えられているようなので、以下、原文のまま掲載いたします。
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   不人気な山

 「山ガール」ということばに象徴されるように、ここ数年登山ブームだといわれている。北アルプス穂高連峰の涸沢では十月の体育の日の連休に、約1,000張のテントがキャンプサイトにあふれ、過去最高を更新した。映画『岳』の影響もあったのだろうが、八月に現地を訪れたときにも、従来の登山客の中心である中高年層に加えて、まるで雑誌のグラビアから抜け出てきたような素敵な女性や若者のグループ・カップル・家族連れなど、あらゆる年齢層の登山者であふれかえっており、ここが旭岳よりも標高が高い北アルプスの山中とは思えないほどだった。
 それから数日経った八月の中旬、大雪山の核心部に位置する白雲岳避難小屋を訪れた。高根ヶ原からトムラウシを一望できる気持ちのよいテラスには人影はなく、小屋のなかもガランとしている。天気がよく、普通の登山者なら行動中と思われるお昼近くの時間帯だったため、ということもあるだろうが、なんとも寂しい景色だ。じっさい大雪山を訪れる登山者は年々減少しており、「百名山ブーム」といわれた1990年代によく見られた”大名行列”のような登山ツアーは影を潜めた。
 もちろん人が多ければいいというわけではない。繁忙期の穂高のように、畳一枚に二人が寝るような寿司詰めの山小屋はいやだし、大型バス一台分の登山客をガイド一人で引率するようなツアーは危険だ。じっさい穂高では、過密状態の登山道で、登山者が起こした人工落石に別の登山者が当たって亡くなる傷害致死事件も起きているし、オーバーユース(過剰利用)は環境保全の面からも問題だ。
 とはいえ、国内最大の国立公園である大雪山がこんな”寂しい”状況でいいとは思わない。21世紀が環境の世紀であるというなら、環境意識を高めるには、国内でもとくに自然度の高い大雪山のような「ホンモノの自然」を体験すべきだと考えるからだ。ではなぜ大雪山がこれほど不人気な山なのか?次号から二回にわたって考えてみる。

山樂舎BEAR代表 佐久間弘

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